ほんとうに壊れた自民党

野党的な人物を擁して永久政権を維持

自由民主党は、危機に陥ると、冷や飯食いの左派勢力に総理総裁の座を譲ることにより、国民の支持を回復してきた。いってみれば、野党的で首相が務まるような人物を、常に抱えていた。
自民党の主流派の中でも岸信介佐藤栄作福田赳夫のような復古的な考えを持つものから、池田勇人田中角栄大平正芳のような福祉国家を目指すものまで、思想的にはかなりの広がりがあった。そのさらに左派でも、石橋湛山三木武夫海部俊樹らが首相を努めた。
主流派にとってみれば党内の左派は煙たい存在だったに違いないが、党が批判を受けたときは擬似政権交代の役に立つし、平時でも暴走を食い止めてくれるので、永久政権を維持する強力な装置となった。また、左派の人たちも、自民党にいれば政策をいくらかは左右できるので、我慢して永久与党にとどまる価値があった。
さらに、自民党内に幅広い思想を容認することで、大衆政党として幅広い層からの票を集めることができた。

安倍さんがやめても代わりがいない?

先週の参議院選挙では、自民党は37議席しか獲得できず、宇野さんのときの36議席は超えているものの、総合的にみれば、安倍さんの責任の重大さは宇野さん以上のものがある。(参考「宇野越えを果たしたともいえる」)
宇野さんが参議院選挙で大敗したときには、海部政権が発足して支持を回復することができた。しかし、安倍さんがやめる様子もないのは、本人が意固地になっているだけではなく、代わりになる人がいないからだろう。
小選挙区制が導入されたことで派閥機能の弱体化した上に、小泉政権の刺客を送るやり方が、ほんとうに自民党を破壊してしまった。自民党の永久野党時代がはじまろうとしている。
反対に民主党は、自民党の中道派から社会党の右派までの幅広い人材を擁して、大衆政党の実体を備えている。今後も意見の多様性を守ることができれば、自民党に代わる大衆政党として、安定した政権を獲得する可能性が高い。

アイリッシュの灯火消えゆ

currykid2007-08-04


原宿からアイリッシュの灯が消えた。神宮前交差点にほぼ面した超一等地のビルの二階は、20年以上にわたってアイリッシュパブであり続けた。
はじめはダブリンに本店のあるビューリーズカフェの支店として開業し、紅茶を売り物にした。その後間もなくして、ギネスなどに販売の重点を移し、重厚なマホガニー材でこしらえたバーカウンターで、現金と引き換えに飲み物を受けとり、たまにはアイリッシュ音楽の生演奏があるアイリッシュパブのおそらくは日本一号店となった。
経営者と屋号は何度も変わったが、それからもアイリッシュパブであり続けてきた。
アイルランド最大の祭りセントパトリックのパレードが、毎年表参道で行われるのも、この店があったからこそと思う。現に、パレードがある3月中旬の日曜日には、この店が本部となり、主催者たちと見物人たちが店を埋めつくして、ギネスなどのスタウトを求めてカウンターに殺到する。ついにはグラスが不足して、プラスチックのコップが登場することもあった。来賓としてアイルランドのハーニー副首相がやってきたこともある。
拙者は以前にこの店のバーテンだった。しかし、間もなく関東を離れることになっているので、最後にと思って、約五年ぶりに店を訪ねた。
ところが、そこはコーヒー店に変わっており、店の人に話を聞いてみると、7月まではアイリッシュパブだったのが、すこし前に経営者が変わってコーヒー店になった。そのことには、青春の一部を失うような気がする。しかし、居抜きで使っているため、カウンター、簡単な料理のための小さな厨房や、フロアの板張り、偽の暖炉や客の仕草に注意するための鏡などはそのままだったのは、不幸中の幸いだ。写真は、昔は酒が並んでいたバーの棚にコーヒーが並んでいる様子を撮影させてもらったもの。
この店が登場して以後、東京圏にはアイリッシュパブが爆発的に増えた。そのため、家賃が高騰する神宮前では経営が困難になったのだろう。日本のアイリッシュパブ発祥の地でもあり、また個人的にも残念に思う。

じいちゃんの思い出(1)

祖母が、13年前に亡くなったじいちゃんの、戦時中の話を聞かせてくれた。
じいちゃんは、ニ・ニ六事件の頃に天皇陛下の近衛兵として徴兵された。一時除隊中の昭和18年に祖母と結婚すると、三月後には再召集され、下士官として、地元連隊の新兵教育にあたっていた。
その頃に、祖母が餅菓子を持って連隊本部を訪ねたことがある。食糧難となりつつあった頃だが、親戚に和菓子屋さんがあったので手に入ったらしい。祖母は、じいちゃんが上官に菓子をわたせば待遇がよくなるのではないかと勧めたが、じいちゃんは「そんな者にやる必要はない。」そして、控えていた部下の軍服の下に菓子を隠させて、「みんなに分けてこい」と、辛い思いをしている新兵に与えた。
東南アジアに送られてからは、危険な偵察任務を尻込みする士官の代わりをよく引き受けていたらしい。
誠実で、人にへつらわず、下の者にやさしいじいちゃんは、祖母によると「男のなかの男」だった。
じいちゃんは、戦後は事業で成功するが、帰国までには、拙者の想像を絶する危機を乗り越えてきた。そのことは、また気が向いたら書くよ。

夏本番

梅雨が明けて、気温はぐんぐん上がって、体温以上に。冷え症の祖母までが、エアコンの使い方を聞いてくるほどの、厳しい暑さ。
その祖母が政府を批判するのを、生まれてはじめて聞いた。保守層が自民党を見限っていることの確信を強くしたな。

今度は本物だろうか

先週木曜日の夜くらいから、世界の主要市場の株価が急落している。
ニューヨークは5%、東京もそれに近い下げだ。
ニューヨークの株価は去年の後半から5割以上の値上がりだ。金利の安い円を借りて投資する手法が、資産のインフレに大きく貢献しているといわれる。
ニューヨークの株価指数は2月末から3月はじめにかけても5%くらい下げたが、一時的なものに終わった。
それに比べて、今回は円高を伴ってきているので、円を借りている投資家は資金繰りに苦しんで、投げ売りする者も出てくる。また、山高ければ谷深しともいう。
今度こそ、逃げるべき場面のような気がする。

宇野越えを果たしたともいえる

自民党の獲得議席は37で、平成元年の36議席を1だけ上回った。
しかし、宇野さんと安倍さんのどっちがひどいか、あるいはどっちがより同情の余地があるか比較してみる。

項目 宇野さん 安倍さん
獲得議席 ▲37 △36
改選総定数 ▲126 △121
準備期間 ○1月強 ×10月強
公明票 ○対立 ×協力

やっぱり、総合的にみて安倍さんは宇野越えを果たしたといえる・・・

階級政党化した自民党と大衆政党化した民主党

安倍さんと自民党

自民“拒否率”激増 36%(しんぶん赤旗)

組織力で勝てない理由

きのうの参議院選挙では、党員数が5万人に満たない(サポーターは20万人くらい)の民主党が60議席、党員120万を擁する自由民主党に23議席もの差をつけて圧勝した。自民党員の比率が高いと思われる一人区でも、与党の6勝23敗と野党陣営が大勝だった。
組織力で圧倒するはずの自民党が、民主党に負けるのはどうしてだろう。それは、日本共産党を考えてみればわかる。共産党の党員は40万人を数えるが、都道府県別では民主党に全敗している。その理由は簡単で、共産党は階級政党とみられているため、支持を得ることができる層が一定以上には広がらないからだ。世論調査で、共産党に対する拒否率(投票したくない政党)が最近まで1位を続けてきたことからもそういえる。これでは、いくらがんばって運動しても、得票の伸びには限度がある。

『富裕層の共産党』になった自民党

しかし、冒頭にリンクした赤旗の記事によると、現在では自民党の拒否率がダントツに高い。共産党よりもはるかに高い。赤旗では理由を特に示していないが、これは自民党共産党と同じく階級政党になったためだと思う。共産党貧困層のための階級政党であるのに対して、自民党は富裕層のための階級政党になった。そのことを国民が実感してきた結果が拒否率として現れた。
かつての自民党は極右から左翼(さすがに極左はいない)まで幅広い人材を擁しており、時代の要請に応じて国民の各層の要求に応じることができる大衆政党だった。国民健康保険国民年金などの社会福祉政策ですら、自民党が実現させてきた。ところが、小泉政権あたりから、自民党は階級政党化をはじめた。端的な例が平成17年の郵政選挙で、郵政民営化法案に反対した自民党議員に公認を与えないばかりか、刺客と称して対立候補まで送り込んで「暗殺」を図った。自民党アメリカ流の自由主義者ばかりを多く抱えるようになり、この時点で自民党は『富裕層の共産党』になって、(共産党共産主義政党であるように)自由主義政党として階級政党化した。
自民党が富裕層のための政策しかやらないことがわかると、富裕層からしか支持を受けられなくなってしまう。それがわかっているから、小泉さんは靖国神社に参拝してみたり、安倍さんは教育基本法を通してみたりと、愛国心をアピールして、国民の目先をそらそうとする。しかし、株主や経営者の利益ばかりを追求して労働者を苦しめ、また、アメリカのイラク侵略に加担して国民に恥ずかしい思いをさせる自民党が、いちばん愛国心がないのではないか。

大衆政党となりつつある民主党

それに対して、民主党は今回の選挙で、国民の圧倒的多数を占める保守層に食い込んだ。保守層とは、共産主義自由主義も信じない、ほどほどの暮らしが維持できればよいと考え、権利義務関係よりも人とのつながりを信頼するような普通の人たちである。この人たちが政策に幅のある大衆政党を好むことは、ずっと自民党の支持基盤だったことからも明らかだ。そして、民主党は実際に右の人から左の人までを国会議員に擁して、大衆政党の実態を備えている。
今後はさらに多くの保守層が、階級政党となった自民党に背を向け、大衆政党の民主党に参加すると予想される。また、同じ層をターゲットにしている国民新党は、いずれ民主党に吸収されるかもしれない。
中間層や貧困層の票をとりまとめて、自民党を支えてきた創価学会の会員も、この敗北で『平和と福祉の公明党』が『富裕層の共産党』である自民党の応援を続ける矛盾に気が付きはじめるだろう。
こうして、数年後には民主党を与党として、自民党を最大野党とする1.5大政党制(かつての永久与党自民党と永久野党社会党のような関係)が固定化するかもしれない。また、政界再編を経て、右派の大衆政党と左派の大衆政党で政権を争う構図となる可能性もある。