国会では、ゆっくりとしたアメリカ離れがはじまる

currykid2007-08-07

国会の状況のおさらい

民主党社会民主党国民新党の野党連合は、先週の参議院選挙で過半数議席を制した。そのため、野党側は法案を参議院に先に提出して可決してみたり、与党が衆議院を通してきた法案を参議院で否決することもできる。
与党は衆議院では自民党公明党で3分の2以上の議席を占めているので、参議院で否決された法案を衆議院で再可決する力技はある。しかし、参議院議長が民主党出身の江田五月さんになったこと、公明党が是々非々の態度を強くしてくると考えられることから、何度も使える手段とは思わない。
与党側は慎重に野党側の顔を立てないと、法案を通すことがほとんどできなくなる。

メインテーマは「アメリカ離れ」

そんなわけで、これからは、野党側の主張にも相当の重みと責任がついてまわる。
民主党の鳩山さんは、9月の臨時国会の目標として、テロ対策特別措置法延長反対郵政民営化の延期金保険料を他の目的に使わなくする法案提出を掲げた。考えてみれば、この3つの主張は、すべて「アメリカ離れ」の方向を向いている。
テロ特措法は言うまでもなく、アメリカの戦争を支援するものだ。郵便局を民営化するのも、金融業に強いアメリカの投資銀行に莫大な郵便貯金を扱えるようにして、彼らに運用手数料を儲けさせるためだ。また、安倍首相らが年金問題で、声高に社会保険庁を批判するのも、民間企業ひいては外資に年金を扱わせたいというねらいが見え隠れする。民主党は、年金を信頼できるものに戻し、民営化の必要などないようにしようと言っているわけだ。
だから、一言でいえば、鳩山さんは「アメリカ離れしよう」と主張したことになる。

なぜか隠されるメインテーマ

というわけで、次の国会は、与党の「アメリカ追随」の是非をめぐって全面対決になる。そんなこと選挙では聞いてないよと言う人もあるだろうが、選挙の隠れテーマも実は「アメリカ追随」の是非だったのだ。実際、鳩山さんの3つの主張は、それぞれ社民党(テロ法)、国民新党(郵政)、民主党(年金)が分担して主張してた。ほかにも、民主党が主張した食糧自給率の向上も農業国アメリカの利益に反する。
野党側は直球勝負で、「アメリカにNO」という合言葉で与党の売国ぶりを批判すればいいのだけど、それをしない。個別の政策ごとに球数を費やして丁寧に、与党のアメリカ寄り政策をひっくり返そうとする。

アメリカ論争」を避ける理由

与野党の対立点を個別にみていくと、その多くはアメリカとの付き合い方に行き着く。それを正面から主張することは、与野党の双方から避けている節がある。その理由を推量してみる。
与党の側から「日米関係を傷つけるな」という主張もありえそうな気もする。でも、そういう仕掛け方をすると、野党側も正面から与党の売国ぶりを攻撃してくる。特に300近い衆議院議席は、小泉さんが「郵政民営化是か非か」でとったものだから、郵政民営化売国政策だとばれると、300議席の正当性が問題になってしまう。だから、与党からは頬被りをするに決まっている。
また野党側は、勝手に安倍さんがコケてくれるから、そんな論争の種を自ら提供する必要がない。安倍政権が続けば、放っておいても、野党への支持は増える。そんなところに、対米関係という国論を二分するような論争を持ち出せば、親米意識をもつ人が自民党支持に戻るかも知れないからだ。また、アメリカ離れをすると、自主防衛が必要になるので、社民党などと保守派の関係が悪くなるおそれがある。
このような両すくみの状況のなかで、イラク戦争の失敗によるアメリカの退潮のため、野党の主張がなし崩し的に通っていくだろう。
自民党は、野党を刺激できないので、政権にこだわりながらも、妥協に妥協を重ねて、いっときは下野し、時の経過により国民が小泉政権のやったことを忘れるのを待つしかない。そのときまでに、アメリカ流の自由主義者の影響力をできるだけ低下させ、「日本人の心がわかる保守政党」に戻れるかどうかが、強い自民党が復活できるかどうかの鍵となる。
しかし、小沢さんは民主党を「日本人の心がわかる保守政党」にするために、着実に動いている。それが先に完成すれば、自民党が戻る位置はなく、自民党は富裕層のための階級政党でいるしかなくなる(参考階級政党化した自民党と大衆政党化した民主党)。