じいちゃんの思い出(1)

祖母が、13年前に亡くなったじいちゃんの、戦時中の話を聞かせてくれた。
じいちゃんは、ニ・ニ六事件の頃に天皇陛下の近衛兵として徴兵された。一時除隊中の昭和18年に祖母と結婚すると、三月後には再召集され、下士官として、地元連隊の新兵教育にあたっていた。
その頃に、祖母が餅菓子を持って連隊本部を訪ねたことがある。食糧難となりつつあった頃だが、親戚に和菓子屋さんがあったので手に入ったらしい。祖母は、じいちゃんが上官に菓子をわたせば待遇がよくなるのではないかと勧めたが、じいちゃんは「そんな者にやる必要はない。」そして、控えていた部下の軍服の下に菓子を隠させて、「みんなに分けてこい」と、辛い思いをしている新兵に与えた。
東南アジアに送られてからは、危険な偵察任務を尻込みする士官の代わりをよく引き受けていたらしい。
誠実で、人にへつらわず、下の者にやさしいじいちゃんは、祖母によると「男のなかの男」だった。
じいちゃんは、戦後は事業で成功するが、帰国までには、拙者の想像を絶する危機を乗り越えてきた。そのことは、また気が向いたら書くよ。