アイリッシュの灯火消えゆ

currykid2007-08-04


原宿からアイリッシュの灯が消えた。神宮前交差点にほぼ面した超一等地のビルの二階は、20年以上にわたってアイリッシュパブであり続けた。
はじめはダブリンに本店のあるビューリーズカフェの支店として開業し、紅茶を売り物にした。その後間もなくして、ギネスなどに販売の重点を移し、重厚なマホガニー材でこしらえたバーカウンターで、現金と引き換えに飲み物を受けとり、たまにはアイリッシュ音楽の生演奏があるアイリッシュパブのおそらくは日本一号店となった。
経営者と屋号は何度も変わったが、それからもアイリッシュパブであり続けてきた。
アイルランド最大の祭りセントパトリックのパレードが、毎年表参道で行われるのも、この店があったからこそと思う。現に、パレードがある3月中旬の日曜日には、この店が本部となり、主催者たちと見物人たちが店を埋めつくして、ギネスなどのスタウトを求めてカウンターに殺到する。ついにはグラスが不足して、プラスチックのコップが登場することもあった。来賓としてアイルランドのハーニー副首相がやってきたこともある。
拙者は以前にこの店のバーテンだった。しかし、間もなく関東を離れることになっているので、最後にと思って、約五年ぶりに店を訪ねた。
ところが、そこはコーヒー店に変わっており、店の人に話を聞いてみると、7月まではアイリッシュパブだったのが、すこし前に経営者が変わってコーヒー店になった。そのことには、青春の一部を失うような気がする。しかし、居抜きで使っているため、カウンター、簡単な料理のための小さな厨房や、フロアの板張り、偽の暖炉や客の仕草に注意するための鏡などはそのままだったのは、不幸中の幸いだ。写真は、昔は酒が並んでいたバーの棚にコーヒーが並んでいる様子を撮影させてもらったもの。
この店が登場して以後、東京圏にはアイリッシュパブが爆発的に増えた。そのため、家賃が高騰する神宮前では経営が困難になったのだろう。日本のアイリッシュパブ発祥の地でもあり、また個人的にも残念に思う。