格差ネタ

雨の末広亭

毎週土曜日、新宿末広亭でやっている二つ目の勉強会『深夜寄席』に行ってきた。500円の木戸銭で若手4人の噺が聞けるので、たまたま近くにいるときには、できるだけ足を運ぶようにしている。台風が接近し篠つく雨が降る中でも、聞くアホが150人くらいもいたことには驚いた。

最初の二人がよかったな。さん弥の噺は新作と思われる。大学に入って上京する息子を父親が駅で見送る場面だが、まるで出世して赴任地に出発する部下を励ます上司のようなよそよそしさと下世話さで、息子に東京生活のアドバイスをする。やたらにぎやかなだけの噺だが、この人は顔に似合っているから許せてしまう。ライオンズの和田をもっとたれ目にした感じで、下世話な親父がぴったりはまっている。顔に似合ったネタを選ぶことも、意外と大事なのかもわからん。
わか馬の『青菜』は一番面白かった。仕事で通っている大店の隠居に一杯ご馳走になった、長屋住まいの職人が、隠居の優雅な態度に感銘を受け、長屋に帰って友達相手に試してみる。しかし、付け焼刃の悲しさで、なかなかうまくいかないというもの。隠居と職人が同じせりふを話すのだけど、庶民が必死に優雅ぶる滑稽さがうまく表現できていた。また、氷をほおばる演技が絶妙だった。
ところで、最近の深夜寄席の客は若い人が多く、36歳の拙者などは全体の平均年齢を少し上げているくらいだ。落語から客足が遠ざかり、寄席の灯火がいつか消えると思われていた時代があったのが、まるでうそのようだ。それはうれしいことではあるけど、古典落語にはだんだんとわかりにくい点が増えている。『青菜』のなかでも、長屋の職人が「まあ、縁側にでも腰掛けて・・・」というところで古い客なら笑うのだが、長屋に庭や縁側どころか、窓もあるかわからないことを知らない新しい客は、相手の友達が「縁側なんてないじぇねえか」というところで気づいて笑う。それでもけっこうウケていたが、「監禁灼熱プレー」は滑った場合の保険だろう。今風にいえば、これは『格差ネタ』で、それが理解されないこと自体は総中流社会の証拠で、あながち悪いことでない。これから所得格差がさらに拡大して、フリーターと株成金とかの『格差ネタ』の新作落語がじゃんじゃん作られるようになったらいやなものがあるな。
三人目の菊可の噺は悪くないと思うが、『皿屋敷』という噺じたいが余り好きではないのでいまいち楽しめない。お菊の井戸を見世物にしてしまうという設定が、説明的すぎるというか、変に理屈っぽく感じられる。古典だが、ちょっと無理のありすぎる噺で、これをやるくらいなら、消灯して薄暗い中で本当の怪談をしてくれる方が、まだ気が利いている。
最後に登場したこみちは女噺家深夜寄席へは初出演だという。『宮戸川』の聞きどころのひとつに、おじさん夫婦が出会った当時の思い出をしんみり話す場面があるが、ちょっと演じ分けがまずくて、ややもするとどちらが話しているかわからないことがあった。二つ目に上がって1年も経ってなく、まだまだうまくなれると思うのでがんばってほしい。
あしたは台風が直撃するそうなので、家に篭城してまた選挙ガイドでもつくろうかと思っておる。