アメリカか日本か

日本

日曜日の参議院選挙の結果をこれまで予想してきたが、きょうは一有権者として選挙のことを書きたい。拙者は、選挙にはそこそこ詳しいつもりだが、政策については居酒屋おやじ級なので、ひまな人以外は読まなくていい。
こんどの参議院選挙で、どの政党、候補者に投票するかで、一番重く見ていることがある。それは「アメリカか日本か」だ。戦後のわが国に、アメリカが与えた影響は、目に見えるもの、見えないものを含めて圧倒的なものがある。そして現在、そのままアメリカの影響を受け容れていくか、日本人が自信をもって自らの道を進むかの分岐点にきていると思う。
恥をさらすならば、拙者自身は数年前まで西洋的なものが善で、日本的なものが悪でださいという、安倍さんの言葉でいえば「戦後レジーム」にとりつかれていた。職場では、仕事さえできれば、協調関係などどうでもよい。子供の進路や生き方は、親に縛られるべきでないし、老いた人の面倒は国がみるべき。犯罪でなければなにをやってもよいし、権利はがんがん主張するのがかっこいいと。個人主義法治主義、権利義務中心主義が合理的で正義だと信じていた。それに対して、日本的に思われる家族主義、人知主義、譲り合い主義は消滅すべきものだと思ってきた。
そんな考え方だから、仕事もうまくいかない。それをわが国の社会が悪いと決め付けて、アメリカに移住しようと真剣に考えていた。そのために、労働ビザをとるのに有利な職に就いたこともあるし、またグリーンカードの抽選に応募したこともあるが、今思えば赤面ものである。
拙者にとって幸いだったのは、アメリカがアフガニスタンを侵略しはじめたことで、正義の味方だと思っていたアメリカが無辜のアフガニスタン人を殺したからだ。このときに何かがおかしいと気が付き、アメリカとは距離を置くべきだとは考えはじめたが、依るべき基準が見出せないまま数年を生きてきた。
しかし、石川英輔さんの江戸時代の庶民の豊かで共生的な姿を紹介した大江戸シリーズの本や、美容師さんに紹介されて読んだ藤原正彦さんの『国家の品格』などに触れて、家族主義、人知主義、譲り合い主義の日本人の庶民が、とりわけ江戸時代には世界で最も豊かで、知的で、情緒に優れ、しかも平和な社会を維持してきたことを知るにつけ、第一に依るべきはご先祖様の知恵であり、次に自分たちで考え、それでだめなときにはじめて外国の知恵を借りるのがいいと気が付いた。それだけ、日本人の問題解決能力は信用してよい。
ところが、いろいろな問題が起こると、すぐに外国のやり方を真似ようとしてしまう。企業はバブルが崩壊すると、あっさりと年功序列を放棄して、能力給を導入したが、うまくいっていない。政治では、右の陣営は成長のためと称して共生の理念に反する新自由主義を主張、それに対抗して左の陣営は権利義務中心主義での弱者保護を声高に主張している。前者が富裕層の利益を代表し、後者が貧困層の利益を代表し、お互いに主張をぶつけあって雌雄を決すればよいという西洋的な考え方は、たしかに一理あるだろう。
しかし、右の陣営の主張は、能力が平等であるはずがない人間を、同じ条件で競争させる点で無理がある。また、左の陣営の主張は、「天から与えられた権利」という空想の産物から敷衍して、平等を当然の権利として主張する点で無理がある。
日本人はご先祖様が培ってきた、家族主義、人治主義、譲り合い主義を活かして円満な社会を再構築すべきではないかと思う。難しい政策は詳しい人に任せるが、理想を言えば、強い者は弱い者をいたわり、弱い者はお返しに強い者を尊敬する。これまでとは逆に、日本的な共生と弱者保護の思想を世界に発信できれば、世界はいくらか平和になるかもしれない。
富裕層は自分の能力と努力だけで地位や財産を獲得したと思い上がってはならない。謙虚になって、社会や自然環境、歴史の中のご先祖様のおかげで、たまたま地位や財産を得たと知るべきだ。トヨタのような大企業の社長でも、仮に原始時代に生まれたならば、マンモスを追うような生活は避けられなかったろう。しかし、社会的なお膳立てが揃った現代に生まれてきたからこそ、名声や富を手に入れることができた。そのことに感謝しなければおかしい。自分さえよければ、競争相手が潰れてもよい、下請け企業が赤字でもよい、従業員の生活が苦しくてもよいという態度は、感謝の心が足りない証拠だ。
また、富裕層が大きな負担を受け容れ、その恩恵を貧困層が受けるならば、それに対して感謝を惜しむ必要はない。
株主主権が声高に主張され、農村は荒れ、郊外大型店が中小の商店を追い詰め、派遣労働者は賃金の3割以上を黙って搾取され、老後の生活や資産保護は保険・証券会社を通じて自己責任で、親子でともに食事をする家庭の方が珍しく、罰せられければなんでもやる身勝手な者がとがめられず、学校の先生は親たちの過剰な権利の主張にさらされ、国防はアメリカに依存のままでイラク戦争に加担させられ、日本はアメリカ化の完成一歩手前まできている感がある。
参議院選挙では、ご先祖様や日本人の力に自信を持ち、アメリカから距離をとり、上下が仲むつまじく暮らせる円満で平和な社会を目指す勢力に投票する。
今日はほんとうにたわごとでごめんなさい。