死に票にしたくない!

アイルランドの投票用紙

カレーのことやタイ旅行のこととかも書きたいけど、選挙の話題にアクセスが集中しているので、今日も選挙のネタにする。

当落に影響がなければ『死に票』

拙者くらいの選挙マニアになると、投票に行くにしても、知人に投票を薦めるにしても、ただ好きな政党や候補者を選ぶだけでは、満足できない。選挙は、ある人や候補者を代表にするかしないかを決めるものなのだから、それに影響のない投票は『死に票』だと思う。
普通は落選者に投票した票を『死に票』と呼ぶが、拙者に言わせれば、票が有り余っている人に投票するのも『死に票』だし、とうてい当選に届かないいわゆる泡沫候補に投票するのも『死に票』だ。具体的にいうと、定数が3人の選挙区で投票するなら、ぎりぎり当選の第3位の候補者か、惜しくも落選の第4位の候補者に投票しなければ、せっかく投票に行く甲斐がないと、勝手に思っている。
そのためには、事前に情勢を知っておく必要があるが、世間で報道されている報道は必ずしも正確ではないし、情勢の報道によって投票行動がゆがめられる弊害もある。拙者も統一地方選挙では、当選させたい候補者のうちで最も当落線上に近い候補者を推理して投票したが、その候補者は余裕をもって当選し、余裕があると思っていた別の意中の人が落選してしまった。一票を有効に働かせたいと考える有権者にとって、いまの選挙制度は不親切だといえる。

アイルランドやオーストラリアの選挙制度

選挙制度には小選挙区制や大選挙区制、比例代表制などさまざまな手法があるが、それは国のありかたそのものに関わる問題だから、一筋縄ではいかない。でも、選挙区ごとに定数を決めて、単純に得票数順に当落を決めていくのは、技術的にもっと改善の余地がある。
アイルランドやオーストラリアでは、図のように候補者が政党名などとともに、一覧になった投票用紙を受け取る。有権者は、右端の空欄に当選してほしい順番に数字(最後まで数字を書き込む必要はない。1だけでもいい)を書き込んでいく。有権者は情勢がわからなくても、好きな候補から順に番号をふれば、その意図が最大限に活かされる仕組みになっている。これを専門用語で『単記委譲式』と呼ぶらしい。

  1. 開票では、まず『基数』といわれる当選に必要な票数を決定する。基数の式は『有効投票数÷(定数+1)+1』票で、これだけの票をとれば理論的に絶対落ちない数字(定数1なら過半数と呼ばれる数字)だ。
  2. 次に、候補者ごとに投票用紙に『1』と書かれている枚数を数える。ここで基数を超えた候補者は、当選が決定する。そして、その候補者が基数を上回っている分を、その候補者に『1』と書いた人の票のうち『2』と書かれた候補者の比率に応じて分配する。
  3. 2の後で基数を上回った候補者がいれば、もういちど2のように余った票を分配するが、基数を上回る者がいなければ、とりあえずその時点で最下位の者を落選とする。そして、最下位の候補者の票を、次の順位の候補者に分配する。
  4. これを繰り返して、基数に達する当選者が定数になったら、おしまい。でも、順位が途中で抜けている票があったりして、定数に達しなかったら、2と3をやれるだけやった時点で上位の者が当選。

サルでもわかる具体例

説明だけだとわかりにくいので、具体例を書きます。
定数は3で、与党カレー党からダル氏、ムルギ氏、サブジ氏、野党ラーメン党からヤキブタ氏、オニギリ党からオカカ氏が出馬しています。有効投票は60000票でした。

党派 名前 開票1 開票2 合計 開票3 合計 開票4 合計 当落
カレー ダル 25000 -9999 15001 1位当選
カレー ムルギ 7000 +4999 11999 +6500 18499 -3498 15001 2位当選
カレー サブジ 4000 +3500 7500 -7500 0 落選
ラーメン ヤキブタ 13000 +500 13500 +500 14000 +825 14825 次点
オニギリ オカカ 11000 +1000 12000 +500 12500 +2673 15173 3位当選

まず、基数を計算し60000÷(3+1)+1=15001票となります。
開票1:『1』の票を数えて基数を超えたダル氏が当選です。
開票2:ダル氏の票が基数を9999票超えているので、『2』と書いてある比率に応じて分配します。今回は、ムルギ氏50%、サブジ氏35%、ヤキブタ氏5%、オカカ氏10%だったので、これに9999票を乗じて分配します。やはり、同じ党への委譲票が多く出ます。これで、ダル氏へ余分に投票した有権者は救済されます。
開票3:この時点で基数に達している候補者はいないので、この時点で最下位のサブジ氏は落選とします。しかし、サブジ氏への投票は、次の順位の候補者に委譲するので、サブジ氏へ投票した有権者は救済されます。
開票4:ムルギ氏は基数を超えたので、2位で当選が決まります。カレー党は2議席を獲得し、残り1議席を野党間で争うこととなりました。ムルギ氏の18499-15001=3498票を、次の順位の候補者に割り振ると、カレー党と鋭く対立するラーメン党への委譲は少なく、ヤキブタ氏25%、オカカ氏75%の割合となりました。これに3498票を乗じて加算します。
開票5:カレー党に比較的近いオニギリ党のオカカ氏が、得票では2位のヤキブタ氏を交わして当選です。

単記委譲式の利点と欠点

  • 利点
    • 理論上、すべての投票が当落の判定に影響する。→死に票がでない。
    • 非拘束名簿式比例代表制(参議院比例区)に比べて、「ある候補者は好きだが、その政党を伸ばしたくない」という投票のしかたが可能。アイルランドの総選挙(選挙区の定数3〜5)でも、政党優先で順位をつける有権者のほかに、住んでいる場所が近い先生に政党に関係なく順位をつける人も少なくない。
    • 共倒れの心配が少ないので、候補者数を抑えたために議席が伸びない心配がない。有権者にとっても、民意を反映しやすい。
    • アナウンス効果が出にくい。
  • 欠点
    • 開票が面倒くさい。アイルランドではたいてい1日がかりで翌日開票している。
    • 投票用紙がでかい。
    • 選挙制度を理解しにくい。(理解しなくても問題ないけど)